「お元気そうで」。
舞台前、会場でそんな挨拶をして。
「10年以上ぶりの友達」、
さほど親しいわけではなかったけれど彼女がぼくをそう紹介してくれたのがありがたかった。
10年以上まえ、彼女はロックをやっていた。
そのあと、思うまま作った「うた」を歌い始めて、
恋をして、世俗から逃げるようにアメリカの誰もいない山中の家に越し、産み、
8年。いまは彼とも別れ長野で子供らと暮らし、各地をめぐる旅をしている。
今日は、新しいパートナーとの二人のライブ。
時を超え彼女がそこにいた。
昔の知り合いと言うのは、恥ずかしく照れくさいもの。
振りきり、捨てたはずの自分を持っているひと。
お互いに。
そしてそれは同時に頼りがいのある仲間、と言うことでもあるのかもしれない。
会場を後にするまえ、もう一度挨拶をと思うと、聞いた声がする
見渡すと、最初に勤めた会社の上司がライブの主催者側として走り回っていた。
なぜ?と、ためらっていると、向こうも気が付き、話かけてくる。
仙台にいたのかーと向こう。
なぜに仙台に?とぼく。成人した子供もいたはずのかなり年上の人。
いや実は、仙台のこのひととパートナーになってね。
主催女性の肩を抱く。えっ、とぼく。
東京にいたとき、unigiriくんこのひとともあっているはずだよ。
ええっ…そうでしたっ?とぼく。
向こうはぼくを知っていた。
それ以上は聞かない、元上司とあくしゅをして別れる。
10年以上立つと、人はいろいろあるものらしい。
いたたまれなくなり会場を出る。
帰りにどうしても酒を飲みたくなった。それもすきっ腹に冷やを、入れたくなった。
「この店で一番の辛口を」と頼むと、「日高見(吟醸)」という酒がでてきた。
きりっとしたお酒、おいしい。しみる。
つらいわけでもないのに、涙が出そうになる。
こころの波が落ち着くまでしばし飲んでから、すしを頼んだ。
こんどはわさびで涙が出そうになった。
彼女は思うまま感じるままのに歌を作る。
歌うことがライフスタイルとなっている。
歌うために感じること。それがすべて。
昔の歌は歌わなかった。
みな、幸せそうで、よかった。