死んだ父親からは憎しみという感情だけを教わった 。
したことされたことをマネすることが子供の務めとするなら
いつか仕返しを、と思いつつ
されたことを、なかったことにするのがせいぜい。
存在すら。
こちらから、連絡をしないことが、せめてもの意思表示で。
向こうにもこちらの住所は知らせずに。ずっと。
葬式に、でなかったくらいでは、仕返しにはならないけれど
それ以上の機会はもうなく
いまや、行き場のない気持ちだけがのこる
母親からは夫婦でいることの悲しみを打ち明けられ
小学生のときにすでに存在の悲しみを教わった。
憎しみを抱えるひとが苦手なのは
自分の中の憎しみを引き出されそうになるから。
悲しみももういいな。
さてけれどこれから、自分のためだけに
生きるというのはそれもまた、悲しいかな。